町域に広大な大雪山国立公園を抱える東川町は、暮らし自体が自然と深く関わっているところ。この町の人たちがどんなふうに山と接しているのか。それを知りたくて、真冬の旅に出かけた。

2014年9月。旭岳の初冠雪は例年よりも少しだけ早く、それは冬の訪れも早まることを予感させた。町の雪好きたちは色めき立ったけれど、実際に迎えた冬は数十年に一度という雪の少ないものだった。

それでも雪好きたちは終始笑顔だ。雪雲の少ない冬は、例年なら厚いガスに包まれる山に何度も晴天をもたらした。麓の町から、青空にクッキリとそびえ立つ旭岳を眺めることができる。これまでは滅多に見ることのできなかった風景を味わいながら、山行の予定を放課後の小学生のように話し合うのだ。

晴れの続いた山では台風なみの風が強く吹き、柔らかい雪をすべて吹き飛ばしたようだ。滑り手にとって、決して良いコンディションではない。しかし、雪が少なければいつもより速く、遠くまで歩ける。雪の少ないこの冬は、今までたどり着けなかった山にアプローチする絶好のチャンスなのだ。

天気予報によると晴天は続くけれど、風がやむのはたった二日。この二日で出かけよう。予定はこうだ。初日はルートの途中まで歩いてから山中でキャンプ。翌日、最小限の荷物だけを背負って夜明けと同時にスタート。ラッセルがなければハイクは速い。深雪のない裾野をひたすら歩いてアプローチし、今まで見るだけだった山に登り、狙った斜面を滑る。あとはキャンプを撤収して、麓の町に帰るのだ。

真冬のキャンプは大荷物だ。防寒具や食料、燃料、それにアイゼンやピッケル。バックパックはゆうに20kgを超える重さになった。そして予想通り、山は恐ろしく寒い。楽なことはひとつもない。なのに終始、笑顔が止まらない。ここで、山で仲間と過ごしていられることが、たまらなく嬉しいのだ。たまたま満月の翌日となった夜。月明かりは彼方の山まで染みこむように夜気を貫いた。明け方の気温は、マイナス25℃まで下がった。

残念ながら狙った山までは届かなかった。手をかけるにはもう少し時間が必要だった。けれど誰も落胆していない。寒くて重くて滑りにくい二日間だったけれど、やれることは全部やって、とびきりの充実感を抱えて町に下りてきた。何しろ山は目の前だ。焦る必要はない。そのうち、次の機会に巡りあえる。次は、どこに行こう?

「自分の場合、山に触れるきっかけはスノーボードでした。ですから、どうしても冬山に惹かれます。夏山は景色が良くて高山植物が咲いて、とても魅力的です。冬山はそれらがない代わりに、登山道から外れて歩くことができます。どこを歩いても良くて、ルートは自分たちで選ぶことができる。その自由さがたまらないんです。歩くのも滑るのも好きにしていい。しかも歩いて登ったら、今度は滑りが待ってる。こんなに懐の広い受け入れ方をしてくれる冬山ですが、難しいところも多いです。例えば自分の力が足りないところは、容赦なく突っつかれて思い知らされる。そのあたりの厳しさも、毎回背筋が伸びる感じがして好きなんですよね」

Shinya Nakagawa ガイドカンパニー「natures」代表。夏冬を通じ、大雪山系を中心としたガイドを展開。JMGAスキーガイドステージ2取得。元JSBA公認プロスノーボーダー。東川町在住。 www.outdoorlife-natures.com

Lider: Shinya Nakagawa Photo: Yukinori Otsuka Text: Takuro Hayashi Art Direction: Kazuki Murata